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北緯36度線の内牧われわれ埼玉県民は、地球上の緯度など考えて生活することはない。しかし、この緯度が人類の生活に大きな影響を及ぼしている。地球上でもっとも好まれる気候が北緯36度線、この線が春日部市内牧を通っている。 テレビの天気予報では、気圧の動き、雲の流れ、予想雨量などをわかりやすく解説してくれる。見ていると、東北地方と関東地方の違いが明確なことが多い。境界線は福島県と栃木県の間、北緯37度、この緯度が気候上、重要な意味を持っている。地球は、太陽から1分間に2カロリーの熱(1平方センチあたり)を受け、それと同等の熱を宇宙に放出してバランスを保っている(最近は炭酸ガスがバランスを崩してきたが)。しかし、受ける熱量は赤道地方と極地方では大差だ。 特に極地方では、夏は白夜、冬は暗黒の世界が続く。季節によって昼夜の割合、気温差は著しい。低緯度になるに従って差は縮まり、赤道直下ではオーバーヒートしている。この気温差を和らげているのが、地球の自転や大気による風と海流である。 この受熱量のバランスのよい緯度は、どのあたりであろうか。
では、どのあたりが住むのによいところであろうか。我田引水ではあるが、私はずばり北緯36度と考えている。この線が野田市から春日部市の不動院野、春日部市立小渕小学校、内牧のエミナース(国民年金総合健康センター)をかすめ、白岡町や桶川市を通っている。
時代がぐっと下がって米作が始まり、4世紀ごろから地域をまとめる有力者が出現してきた。証拠として、当時の古墳が17基も発見された。このあたりは太古から人々の生活の場として(水や食料が確保できる)、住みやすいところとして栄えていたのである。 20年前、内牧にナシ狩りに行った。サイクリング道路は〈春の小川〉そのもの、メダカやカエルの天国の里山があった。コジュケイが雛をぞろぞろ連れて藪から出てきた。 豊かな自然が残っていたこの内牧も、開発の時代の波に飲み込まれた。宅地開発ばかりでなく、短大、エミナース、彩光園など大型公共建物ができた。大規模な内牧公園も造られた。コナラ、クヌギ、イヌシデなど年代ものの雑木が大量に伐採された。 芝生の大広場ができ、桜の木が植えられた。コンクリートと岩石で固められた人工のせせらぎがポンプで流れ、美しい水辺となったが、メダカやカエルが姿を消した。アスレチック場やバーベキュー場、トイレも完備され、多くの市民の憩いの場として広い駐車場もできた。 「昔はなあ、この森い入ると、冷やりとするほど涼しかったよ」と、老人が話しかけてきた。今、内牧・武里間の道路が造られている。できあがると、便利さの代償に残り少ない屋敷林などの自然は、さらに失われるのを私は憂える。内牧は、古代から人々の営みが営々と続いた自然環境良好な生活の場である。 「命くれない」太古の人々と現代人の絆の場として、この36度線の残り少ない自然と古代の文化遺産を、このまま後世に残して欲しいと願っている。《あみゅーず85号(平成12年9月)より転載》 |